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日本百名山のひとつに数えられ、古くは「万葉集」や高村光太郎の「智恵子抄」に詠まれるなど、安達太良山は多くの人々に親しまれてきました。
その山容は見る場所によりさまざまな表情をもち、東側からはなだらかな稜線と広い裾野がつくるおだやかな風景、西側からは爆裂火口が開き荒々しい姿を見ることができます。
また、中腹の森ではさまざまな高山植物や優雅に舞うアサギマダラなど豊かな自然環境を見ることができ、磐梯朝日国立公園として国立公園にも指定されています。
北より
鬼面山 | 1,482m |
箕輪山 | 1,728m(最高峰) |
鉄山 | 1,709m |
矢筈森 | 1,673m |
安達太良山(乳首山) | 1,700m |
船明神山 | 1,667m |
薬師岳 | 1,322m |
和尚山 | 1,602m |
安達太良山には7つの登山口があり、そのうちこおりやま広域圏の郡山市、二本松市、大玉村、猪苗代町に5つの登山口があります。ロープウェイを利用できる初級者向けのコースから、体力が要求される上級者向けのコースまで、登る人のレベルに合わせて選ぶことができるのが魅力です。
奥岳登山口は7つの登山口のうち、もっともポピュラーな登山口です。あだたら高原スキー場(標高950m)を起点として、薬師岳を経由して山頂を目指す五葉松平コース(標高1,350m付近までロープウェイの利用も可能)と、勢至平からくろがね小屋を経由して山頂を目指す勢至平コースがあります。
登山口にはあだたら高原スキー場のレストハウスや奥岳の湯(温泉施設)があり、下山後にリフレッシュできることも奥岳登山口が人気の理由です。また、麓には岳温泉街があり、登山と温泉に加えて周辺観光へレジャープランを拡大できることもこの登山口の大きな魅力です。
奥岳登山口への玄関となる岳温泉は、元々くろがね小屋付近にあり、かつては陽日(ゆい)温泉と呼ばれていました。過去に起きた山津波や戦災、火事により、十文字温泉、深堀温泉と名を変えながら再建を繰り返し岳温泉として現在の場所へ移りました。
ヒマラヤ大通りの奥に建つ岳温泉神社(陽日熊野神社)には、その変遷の歴史を伝える立札や、かつて使われていた温泉輸送用の木管が置かれ、安達太良山と岳温泉の歴史を伝えています。
駐車場 | あだたら高原スキー場駐車場が利用可能 第1・第2駐車場合わせて1500台、無料 ※紅葉期の土日祝:第1駐車場は有料 |
トイレ | ロープウェイ山麓駅、山頂駅 |
水場 | 勢至平コース、くろがね小屋から500m程の場所に「金明水」 |
難易度 | 初級レベル |
二本松塩沢スキー場(標高770m)にある登山口です。
安達太良山唯一の沢沿いのコースで、三階滝をはじめ八幡滝や霧降の滝など、豊かな森と迫力ある滝が織りなす景観が魅力の登山口です。
駐車場 | 塩沢スキー場駐車場 100台、無料 |
トイレ | 登山口に公衆トイレ |
水場 | 最初の分岐と三階滝の間に「金剛清水」 |
難易度 | 中級レベル |
猪苗代町の沼尻スキー場(標高1,120m)からアクセスする登山口です。
白糸の滝、胎内岩くぐりを経由して沼ノ平火口を周回するコースです。眺望のよい尾根や火山らしいダイナミックな爆裂火口など、強烈な非日常感が魅力です。
※登山口から白糸の滝方向は、立入禁止。火山性ガスが滞留する場所があるため、注意が必要。
猪苗代駅からバス乗車し、中ノ沢温泉で下車。登山口まで徒歩で1.5時間程です。
駐車場 | 50台、無料 |
トイレ | なし |
水場 | なし |
難易度 | 中級レベル |
安達太良山山頂付近から見る和尚山と郡山
母成グリーンラインの石筵登山口(標高770m)を出発点として、名瀑百選に選ばれる郡山市の銚子ヶ滝を横目に登る登山口です。
和尚山を経由して安達太良山山頂を目指し、船明神山を周り下山します。安達太良山の主要なコースの中では最も所要時間が長く体力が必要なコースです。また、水場やトイレがなく、沢を渡渉する場所もあるので上級者向けです。
※石筵ふれあい牧場側ルートは、冬季(12~3月)閉鎖
駐車場 | 第1:5台 第2:30台 第3:20台 いずれも無料 |
トイレ | なし |
水場 | なし |
難易度 | 上級レベル |
かつては安達太良山に詣でる参道だったことから「表」登山口と呼ばれています。登山口(標高590m)から広葉樹の森を2時間ほど登った場所にある仙女平から先は、和尚山から安達太良山へ続く稜線の眺望が開け、仙女平から1時間ほど進むと、奥岳登山口の五葉松平コースと合流します。
駐車場 | 5台、無料 |
トイレ | なし |
水場 | なし |
難易度 | 中級レベル |
岳温泉から勢至平を経て山頂に至るルート(または、二本松塩沢スキー場を起点とする塩沢登山口からのルート)の途中、標高約1,400mにある山小屋が安達太良山で唯一の営業小屋です。(現在、老朽化による建替工事のため営業休止中。)
もともとこの地は陽日(ゆい)温泉と呼ばれ、江戸時代に二本松藩により整備され歓楽温泉街として賑わっていました。その後、山津波や戦災により再建を繰り返し、温泉街は現在の岳温泉へと移転しています。
※建替工事完了まではトイレを含む設備が使用不可。携帯トイレの利用、またはあだたら山ロープウェイ山頂駅のトイレを利用してください。
福島県が管理する無人の避難小屋で沼ノ平火口の北側稜線上にあり、通年無料で開放されています。非常に頑強な造りで収容人数は15人ほど。水場やトイレはないので、飲料水や携帯トイレの持参が必要です。
※避難小屋は悪天候時の一時避難を目的として設置されているため、野営(テント泊)の設備はありません。
万葉集の時代から歌に詠まれ、地域の人々に愛されてきた安達太良山。麓からはおだやかに見える山容ですが、いざ足を踏み入れてみると瑞々しい森から荒々しい爆裂火口まで、驚くほどに多様な自然が広がっていることを感じられます。
ここでは初級者向けの勢至平・薬師岳の周回コースと沼尻・沼ノ平コースで見られる風景を紹介します。
フォトスポットマップ(マップと写真の番号が対応)
①源泉管理の車も通るためとても歩きやすい馬車道
登山口からくろがね小屋までは馬車道と呼ばれる岳温泉の源泉管理用の林道でもあるため、歩きやすい道が続いています。登山口からしばらくは広葉樹に覆われ、烏川の沢音や野鳥がさえずる心地よい樹林歩きで、初夏にはツツジの群落(レンゲツツジが有名)や、蜜を求めて優雅に舞い飛ぶアサギマダラの姿が見られます。
⑥錦繍の鉄山とくろがね小屋
標高1,200m付近の勢至平からくろがね小屋までは平坦で空が開けた明るい道になり、視線の先にせり上がるような鉄山の姿を見ることができます。特に10月初旬は、錦繍の屏風と呼ぶにふさわしい見事な紅葉は必見です。
⑦沼ノ平と裏磐梯湖沼群が作る壮大な景観
安達太良山の頂上部には直径1.2kmにおよぶ爆裂火口の沼ノ平が広がっています。明治33年の大爆発により形成された沼ノ平は、火口外部の穏やかな斜面と対照的に火口内部は荒々しく切れ落ち、見る者を圧倒します。安達太良山の荒々しい一面を象徴する場所といえます。沼ノ平の周縁部には北から鉄山、矢筈森、船明神山があり、さまざまな角度からダイナミックな火山の姿を見ることができます。
⑩鉄山避難小屋
鉄山避難小屋の周辺は広くなだらかで天候が落ち着いていれば、夕陽に照らされる秋元湖や裏磐梯、吾妻連峰などの山並み、稜線上に煌めく天の川、薄暮に染まる船明神などの自然の美しさを感じることができます。
⑭登山口からわずか5分で現れる白糸の滝(展望台より)
沼尻スキー場から沼ノ平へ向けてのコース。火山活動によって裂けた大地を縫うような道は、火山の凄まじいエネルギーを間近に感じられ、歩き始めから圧倒される風景が連続することが特徴です。
白糸の滝展望台からしばらくは灌木帯が続きますが、見通しがよく、せり上がる紅葉の斜面と青空のコントラストや、道の先に見える沼ノ平といった風景がハイカーの心を高揚させてくれます。
⑰硫黄川と湯畑(小屋跡から写真左側は立入禁止)
登山口から40分ほどで船明神分岐があり、沼ノ平火口を時計回りか、反時計回りに歩くかの分かれ道になります。時計回りのコースでは谷の底を流れる硫黄川沿いを登り返す道となります。 ※ 湯畑周辺を歩く際は、火山性ガスに注意が必要です。
詩歌にも詠まれ、場所によってさまざまな顔を見せる安達太良山。登るたびに、四季折々の発見があり、何度でも訪れたくなります。安達太良山の新たな魅力を探す山旅をしてみませんか?
※本記事で使用している地図は地理院地図に登山ルート・撮影ポイントを加工して作成。
https://maps.gsi.go.jp/#12/37.559820/140.280819/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1